新型コロナウィルスのパンデミックが宣言されて約2年が経過しました。「ウィズコロナ」の考えが浸透してきた2022年上半期は、緊急事態宣言下とはまた違った業務の進め方を模索した期間でした。
コロナ禍で一気に導入の進んだテレワークをすでに取りやめている企業もあれば、テレワークを期にさらなる業務の効率化施策を進める企業もあります。
今回は各社で状況の移り変わりが起こった2022年上半期に注目を集めた業務改革トレンドを4つご紹介し、後半では2022年下半期以降のトレンド予測も解説します。
2022年上半期に注目された業務改革トレンド
2022年上半期の業務改革トレンドは、技術が進化したことで再度注目を集めているデジタル技術と、従来の自動化ツールと比較してより高度な業務の自動化や効率化を目指すデジタル技術が注目を集めたようです。
ここでは2022年上半期の業務改革トレンド4つをご紹介し、それぞれの特徴やビジネスへの活用方法を解説します。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは、人がパソコン上で日常的に行なっている作業を自動化するものです。処理の手順をRPAに登録しておけば、その手順通りに作業を実行できます。
自動化の対象としてはリスト作成、内容の転記など定常的な業務が挙げられますが、ソフトウェア開発ではテストケースの作成・テスト実行の自動化などでよく使われています。
基本的にRPAは設定されたプロセスを、設定された通りの順番で実行するだけなので、定型業務での利用が最適です。
最近は米セールスフォース・ドットコム社の『MuleSoft Composer for Salesforce』や米ユーパイアス社の『UiPath Integration Service』といった、クラウド環境と他のアプリケーションを連携し、サービスの自動化を実現するRPAツール(※1)が出てきており、業務自動化の範囲が拡大しています。
※1 『UiPath Integration Service』などのサービスはiPaaS(Integration Platform as a Service)とも呼ばれ、RPAとは別物として区別されることもあります。iPaaSとは、異なるサービスやアプリケーション同士をつないで情報を連携できるクラウドサービスを指します。
参考:PROLABO「RPAとは?今注目されているRPAの意味と効果をわかりやすく解説」
参考:Developer Force Blog「MuleSoftとEinstein Automateでコネクテッドエクスペリエンスを迅速に構築」
参考:UiPath「UiPath Integration Serviceとは― UI自動化とAPI自動化を統合」
PPAP問題
PPAPとは、「メールでパスワード付きのZIPファイルを送り、あとで別メールでパスワードを送る」といったファイル共有方法を指します。
PPAPを用いたファイル共有は、これまでさまざまな企業が採用していた方法ですが、
- メールが盗み見されるリスク
- メール添付されたファイルに対してセキュリティソフトのウイルスチェックが稼働できないリスク
- パスワード入力を無限に試して突破されるリスク
といった問題がありました。日本政府もそのPPAPの危険性から廃止を発表し、現在PPAPを採用する企業は減少傾向にあります。
今後は資料の共有方法として、メール添付ではなくクラウド上のファイル共有システムやGoogleドキュメントなどのサービスでの共有が主流になると考えられます。セキュリティレベルの高いシステムで、共有したいファイルまたはフォルダにのみアクセス権を付与することで、情報漏洩のリスクを軽減しつつ、情報共有の高速化が期待できます。
参考:NTTコミュニケーションズ「「PPAP」は危険!その理由と代替案について」
AIのAPI化・AutoML・MLOps
2021年、IPAが発表したDX白書の中で、「AIの導入・運用を容易にするための技術」として紹介されていたAPI化・AutoML・MLOps。その3つのキーワードが2022年に入ってさらに注目度が高まっています。それぞれ順番に見ていきましょう。
参考:「DX白書2021説明会」ウェビナー資料 5. AI最新動向
API化
APIとは、「アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programming Interface)」の略称です。一言で表すと、ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐ経路(インターフェース)を指します。
例えば、ニュースサイトにGoogleアカウントでログインする際には、GoogleのAPIによってログイン情報を暗号化して認証されています。AIをAPI化することで、AIを一から構築しなくても、AIの持つ機能をあらゆるサービスで簡単に活用できるようになるのです。
AutoML
AutoMLとは、Automated Machine Learningの略称であり、機械学習(与えられたデータの特徴をコンピュータが自動で学習する手法)の自動化を指します。
AIのエンジンともいえる機械学習モデル(機械学習の結果得られた、入力データに対して結果を導き出す仕組み)は、開発するのに数千以上の教師データ(機械学習のためにコンピュータに与えるデータ)が必要です。
ただのデータでは教師データにはならず、アノテーション(元のデータを教師データに加工すること)が必須であり、これが膨大な作業量なのです。ほかにも、機械学習モデルを実装する専門性の高いプログラミングスキルや、AIの出力結果を評価するための知見など様々なスキルが必須でした。
AutoMLはこれらの機械学習モデルの開発作業を一部自動化し大幅に省力化できるのです。米アマゾン・ウェブ・サービス社は近年、機械学習モデル開発支援サービスである『Amazon Sage Maker』のラインナップを拡充させています。ノーコードで機械学習モデルを開発するサービスやアノテーション作業を専門家が仲介して支援するサービスなど、AutoMLに絡むサービスの充実化を図っているように見えます。
MLOps
MLOpsとは、DevOps(開発担当と運用担当が連携、協力して開発するソフトウェアの開発手法)とML(Machine Learning:機械学習)を組み合わせた造語です。機械学習モデルを「一度作っておしまい」ではなく、継続的に本番運用していく仕組みや考え方を指します。
AI(機械学習モデル)は、放っておいても勝手に学習して精度が上がるものではありません。開発された時点の教師データをもとに結果を出力するため、時代が変わっていくと開発時点で使われたデータは古くなり、AIの精度も劣化していきます。
顧客ニーズの変化に適用するようにモデルを定期的に再学習させるなど、運用を考慮した仕組みが必要です。その仕組みや考え方の総称がMLOpsです。AIの活用が一般的になってきた今だからこそ、MLOpsの考え方を開発側とユーザー側双方が持つ必要があります。
参考:AWS「Amazon SageMaker(機械学習モデルを大規模に構築、トレーニング、デプロイ)」
参考:IBM ソリューション ブログ「MLOpsのキホンと動向」
メタバース(Metaverse)
メタバースとは、超越を意味する「メタ(meta)」と、宇宙や空間を意味する「ユニバース(univerce)」を組み合わせた造語です。インターネット上に構築した巨大な3次元の仮想空間を指します。米国の旧フェイスブック社が2021年10月に社名をメタ・プラットフォームズ(通称Meta)へ変更した影響で注目度が高まっています。
ユーザーはアバターとして仮想空間に入り込み、アバターは仮想空間の町を散策したり、仮想オフィス内で同僚と会議ができます。SNSやビデオ会議など、従来のITツールにおけるコミュニケーションの主役は文字と映像でした。メタバースではそこにアバターの表情や仕草が加わるので、会話のニュアンスなどがより自然に伝わるのです。
米ボストン・コンサルティング・グループなどによると、メタバース関連機器の世界市場規模が2024年には現在の10倍に達する見通しを発表しています。日本においてもoVice社の『oVice』や米ヴァーベラ社の『Virbela』などの導入が各企業で進んでおり、リモートコミュニケーションの活発化が図られています。
参考:日経クロステック(xTECH)「仮想空間が生活圏に」
参考:oVice – Business Metaverse
参考:ガイアリンク「Virbela」