令和2年に政府から発表された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」により、各企業にはDX化が求められるようになりました。その中で課題になっているのが、業務の改善です。
現在、約8割の企業が老朽化したシステムを抱えていると言われています。しかし、ほとんどの企業がどこから改善すればいいのか分からないのが現状です。
今回は、業務改善を検討している方に業務改革に成功した企業を10社紹介します。しっかりと社内に新しい文化を定着させ、業務改善に成功させるために必要なことは何かを見ていきます。
業務改善とは?
業務改善とは、業務の中の無駄を無くして、より効率的にすることを指します。具体的には、すでにある業務を可視化し、課題を抽出し解決していくことを行なっています。
経費のみのコストカットをする経費削減と異なり、業務改善では、ヒト・モノ・カネのすべてが対象になるので解決策も企業ごとに異なっていくのが特徴です。
業務改善を行なうメリットは、大きく3つです。1つは、生産力の向上です。2つめに人事費用や余分は経費の見直しなどによるコスト削減。3つめに働き方改革への柔軟な対応です。
業務改善をしていくことで、経営の安定に繋げることができ、会社全体の売り上げを上げる効果が見込まれるでしょう。
参考:GRANDIT「業務改善とは?目的や必要性、進め方の3つのポイント」
【業務可視化】業務改善の成功事例
業務改善といっても、企業の状況によりその方法はさまざまです。どこから手をつけたらいいのか分からず、思うように進まない企業も多く見受けられます。
そこで今回は、手段ごとに成功した事例を紹介します。自社の課題にあった最適な改善を行なっていきましょう。
1.株式会社デジタルアイデンティティ|クライアントごとの稼働量を可視化
株式会社デジタルアイデンティティは、広告運用、プランニング、SEOやアクセス解析、サイト制作、マーケティングDXなど、アイデンティティ設計に基づき戦略立案や運用を提供している会社です。
当時の課題として、社内でクライアントごとの稼働量を詳細に可視化できていないことが挙げられています。誰がどのくらいどんな業務をやっているか明確ではなかったため、クライアントへの効果を最大限にしきれておらず顧客満足度に影響を及ぼしていました。
そこで、工程の可視化をするためにプロセスマイニングを導入。クライアントへの業務の「感覚値を数値化できた」ことで、改善へのアクションプランなど次の施策を考えるフェーズへと進むことができました。
広告運用、プランニング、SEOやアクセス解析、サイト制作、マーケティングDXなど、アイデンティティ設計に基づき戦略立案や運用を提供している株式会社デジタルアイデンティティ。 そんな同社は会社の規模拡大に伴い、業務可視化、そして業務改善[…]
2.株式会社IHI|プロセスマイニングで業務改善のための材料を揃える
株式会社IHIは、グローバルに事業を展開する総合重工業グループです。グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みを加速させている企業として注目を集めています。
課題は、業務プロセスの見直しのための情報が揃っていないことでした。業務のルールやプロセス、量、品質などを再設計・再構築するためには現状を知ることが必要です。IHでは、業務改善の視点は可視化から始まり、標準化、自動化、行動化のステップを意識しています。
プロセスマイニングを使用することで、部門ごとのムダやボトルネック、イレギュラーなど現状の問題点が抽出できるようになりました。
結果として、いくつかの課題を見つけボトルネックがどこにあるかの分析したデータを持つことができました。
参考:IT Leaders「IHIが挑んだ「プロセスマイニングによる業務可視化」の実際」
3.株式会社レディ薬局|ボリュームの多い業務に要する時間を測定
株式会社レディ薬局は、愛媛に本拠地があるドラッグストアです。地方企業の戦略としてコスト削減やサービス品質向上をする必要があるものの、従業員が現状に危機感を抱いていないことが課題でした。
そこで、改善対象となりそうな業務の現状を選定をしました。従業員にも協力してもらいやすいよう、可視化することが重要です。2つの業務に要する時間を測定し、業務実施に必要な1時間当たりの人数を割り出すことができました。またその計画を元に、作業時間測定をリーダーに体験してもらい、時間を実績として管理する取り組みを入れています。
結果として、人件費が8〜14%削減することに成功しています。
【業務自動化・RPA】業務改善の成功事例
「RPA(Robotic Process Automation)」は、事務系の定型作業を自動化・代行する技術のことです。
業務効率化には、ルーティン業務の見直しは欠かせません。ソフトウェア型のロボットを使って大きく業務が改善できた成功事例をご紹介します。
4.ディップ株式会社|社内RPA導入をハイブリッド型で定着に成功
ディップ株式会社は主に「バイトル」「はたらこねっと」などインターネット求人広告サイトを運営する企業です。コンピューター上でのルーティン業務が多い点もあり、本来するべき仕事に時間を割けるようにすることが重要視されていました。
まずは、プロジェクトリーダーを中心に、各部署にRPA推進担当を立てるところから始めました。
推進する上で意識したことが「ハイブリッド型」として柔軟にツールやロボットを使っていくことでした。業務を行う社員の感覚に寄り添い、手作業とツールのどちらも活用することで痒いところに手が届くシステムを目指しました。
導入後は、定量的な業務の負荷や、必要な作業時間の負荷軽減を実現できています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
ITの浸透によりビジネス環境が大きく変化している背景から、業務の改善や効率化に取り組む企業は増えています。しかし、業務改善が必要だと理解はしていても、その方法選択や実際の導入にハードルを感じるケースも少なくありません。 「業務改善をし[…]
5.株式会社三井住友銀行(SMBC)|RPAの導入で年100万時間超を削減
株式会社三井住友銀行では、業務改革室を設置して新しいテクノロジーの活用に取り組んできました。他の銀行よりも早い2016年から、RPAの実証実験を進めています。
具体的な導入プロセスとして、すべての部署の業務を可視化し、重複する業務や無駄な業務の廃止を図っていきました。それでも残った業務をRPAに置き換えられるのか検討し、業務プロセスをRPOに適合させる形で自動化を実施。
これにより、営業店の顧客往訪前の情報収集が80%効率化できました。また、金融商品のモニタリングに関する集計業務が35%効率化するなど成功事例が多数生まれています。
三井住友銀行は、RPAの導入により、2017年度から2019年度までの3ヵ年で350万時間、1,750人相当の業務量を削減できました。
参考:SMBCグループ「業務改革を通じたコストコントロールと生産性向上」
【ツール・システム導入】業務改善の成功事例
業務改善の手段のひとつに、ツールやシステムの導入が挙げられます。複雑な業務や構造を自力で開発したツールなどにより、サービスの質の向上や大幅な時間削減ができた事例も出ています。
ツールやシステムを導入する場合は、煩雑にならないように現場の理解をしていくことが求められます。実際に成功した事例を紹介します。
6.今野製作所|手組みの基幹システムを開発し、業務を合理化
今野製作所は、板金加工や油圧機器の分野で約60年の歴史を持つ町工場です。2008年のリーマンショックで受注数が大幅に落ち込んだことを機に、特注品の受注強化に踏み出しました。しかし、個別注文に応える生産は設計や製造が複雑で生産効率が悪く、さらに伝達ゲームになってしまう課題がありました。
生産効率の改善には、適切な生産管理システムがなかったことから、外部のSE(システムエンジニア)を雇わずに自社で開発を行うことに挑戦しました。大学の教授らと連携をしながら、業務プロセスを一年かけて見える化。業務改善のためのシステム開発を完成させました。
その結果、情報流通の無駄がなくなり、全体の生産性が向上することに成功しました。9年後の2015年には、リーマンショック以前の業績水準を取り戻し、2019年8月期には過去最高益を遂げるまでに成長しています。
参考:キーマンズネット「どん底の町工場が手組みの基幹システムでV字回復、過去最高益を出せたワケ」
7.つくば市|紙の使用量削減のためにツール導入
茨城県つくば市は、2016年から紙の使用量の大幅削減に向けてペーパーレス役員会議システム「ConforMeeting/e」を導入しています。
つくば市の幹部が出席する庁議では、参加者は70人ほどになり、数百ページにもなる資料を用意する必要がありました。
導入の課題として、幹部職員でも使いやすいシステムであることやデジタル特有のトラブルで、会議の進行を妨げないかどうかが挙げられていました。これらの懸念を払拭したのがNECが開発するツールでした。
導入後は、会議での紙の使用量25万枚削減が目に見えるほど紙の無駄を大きく減らすことができました。また、庁議後の資料が職員まで回ってくるまでに1カ月もかかる場合がありましたが、すぐにデータ化して周知できるようになりました。迅速で安全な情報伝達にも貢献しています。
【マニュアル作成】業務改善の成功事例
業務効率化のひとつとして、組織で統一化されたマニュアルが大きな効果を表すことがあります。可視化して無駄な作業を省くことで、全体の生産性の向上につながるからです。どのようなマニュアル作成を行なったのかをみていきましょう。
8.花山うどん|マニュアルの統一化とスタッフへの共有
花山うどんは、群馬県の老舗のうどん屋さんです。店舗オペレーションマニュアルの作成にマニュアルツールである「COCOMITE」を導入しました。
以前のマニュアルでは、Excelなどで独自に作成していましたが、作成する人によりバラバラな形式になっていました。また、公開しても全体で共有されないことが課題としてありました。
COCOMITEを導入してからは、現場からの問い合わせ対応の工数が下がる効果が見られています。マニュアルが見やすくなり、各店舗で生まれた疑問などをツール内で解決できたからです。また、タブレットでマニュアル閲覧ができるようになったので、マニュアルが水にぬれずに活用しやすいなどの声も上がっています。
参考:コニカミノルタ「導入事例・花山うどん様 _ オンラインマニュアル作成・運用サービス」
9.株式会社五味八珍|調理工程の見える化で質と効率の向上
株式会社五味八珍は、中華ファミリーレストランチェーンとして1000人以上もの従業員を抱えています。同社では、調理独自を形式化したことによって技術の標準化が可能になり均質で、高品質なレストランの展開に成功しています。
従来の課題として、複数の店舗で提供する料理の質にブレがあり、工程も均一化されていませんでした。また、パート・アルバイトが多く優秀な人材の確保が難しかったため、人材を育成するという取り組みをする必要がありました。
そこで暗黙知であった調理人の技術をオープン化。隠された勘所やポイントなどを文章化をし、写真付きでマニュアルを作成しました。また、調理技術に関する認定試験をオンラインで配信することで、高い技術の習得と均一化を実現しています。
参考:株式会社五味八珍「独自の社内認定制度で均質・高品質なサービス提供を実現~|サービス産業生産性協議会 」
【業務のアウトソース】業務改善の成功事例
業務のアウトソースとは、自社の業務の一部を外部に委託することを指します。自社で行わなくてもよい業務を切り離すことで、本来自社で集中したい業務に取り組めます。その結果、労働時間を減らし、業務コストの削減を可能にします。
10.セブン銀行|中国にデータ入力作業を委託
セブン銀行は、2012年4月から海外へのアウトソースを実行しています。中国・大連の「「大連信華信息技術(大連信華)」に口座開設業務に関わるデータ入力作業を委託し、大幅なコスト削減を達成しました。
それまでセブン銀行は、事業を拡大していくことを見据えていたものの、現場は常に作業に追われている状態でした。また紙が基本だったため、ペーパーレスへの移行が課題でした。
大連信華に移行してからは、データの入力ミス・人的コストともに半減しました。また、1日当たりの目標を500件としていたが、委託初日に約900件を達成と期待以上の効果があったそうです。
また、デジタルでの業務体制を整えたことで、ペーパーレス化も実現しました。
参考: 日経クロステック(xTECH)「手つかずの業務改革を断行--セブン銀の中国BPO(前編) 」
成功事例から学ぶ、業務改善を成功させる3つのポイント
業務改善と言っても色々な手法や考え方があります。そのため、どこから手をつければいいか分からない人も多いのが現状です。
業務改善は、コスト削減とは異なり、目的を定めて多くの人を巻き込んでいく必要があります。そこでここから、業務改善を成功させるためのポイントを3つ紹介します。
1.現状をしっかり分析する
業務可視化ツールでのフローチャートの例
成功事例のすべてに共通しているのが、現状をしっかりと分析しているということです。
現状分析では、設定した目的と現状のギャップを埋めるために、課題となっていることを明らかにします。業務の棚卸しをする方法としては、ヒアリングやアンケート、業務観察、業務可視化ツールの利用などがあります。
実際に分析する際は、業務フローチャートを作成しながら、いつ誰がどこの業務を担当しているのかを整理していく必要があります。その中で業務の「ムダ・ムリ・ムラ」を絞り込んで、ボトルネックを把握します。
2.定量・定性の2つの指標を設定する
課題の原因を分析し、実行する施策を定めたら、具体的な目標を設定しましょう。その際に定量・定性的な指標にしてください。
なぜなら、掲げた目標によっても手法が異なっていくからです。どのぐらいの期間で、この業務にかかる時間をどのぐらい減らしていきたいのかなど、具体的な目標を立てることで、振り返りもしやすくなります。また、業務改善は、慣れ親しんだやり方を変える必要があります。外部ツールやコンサルタントをいれても、現場を振り回しただけで変わらなかったケースもあります
3.業務改善のPDCAサイクルを回していく
業務改善は、実行するだけでは成功しません。定量・定性指標を基にPDCAサイクルを回していくことが大切です。
具体的には、目的を設定し、業務を可視化していきます。そこから現状を分析した後に施策を計画し、実行。効果を測定し分析して繰り返していきましょう。
重要なのが、短期的に評価をしないと言うことです。普段の業務からやり方を変えて行うことになるので、慣れるまでに時間を要する場合もあります。期間を設けて振り返っていきましょう。
業務改善のために時間をとることは、一見無駄なように思える方も多いです。ですが、大きなコストのリターンを得られるのが業務改善。長期的に、根気よく取り組んでいきましょう。
自社に合った業務改善は「現状を知ること」から始めよう
業務改善をしたいと思ったら、まずはしっかりと現状を知ることが大切です。徹底的に現場を俯瞰して、普段の業務を可視化していきましょう。
業務改善では、目的設定や分析などの下準備がとても重要です。しっかりと業務のフローを見える化することで、自社に合った施策を選べます。企業の数だけ成功事例があるので、事例を参考にしつつ、自社と向き合っていきましょう。
プロセスマイニングラボでは誰でも業務可視化ができる「業務マップテンプレート」の配布や、業務可視化ツール「業務改革クラウド」の紹介もしています。ぜひ、みなさまの業務改善の参考にしてみてください。