本記事では、『プロセスマイニング活用入門(2021、松尾順)』の書評をします。本書の特徴は、プロセスマイニングの基本となる知識を平易な言葉で解説している点です。一方、全体の構成上やや全体像が不明瞭なため、本記事ではこれを補います。
プロセスマイニングとは、ITシステムのイベントログを基にして業務可視化を行い、業務改善・改革を実現する手法です。『プロセスマイニング活用入門』をすでに読んだ方は振り返りに。まだ読まれていない方は要点を短時間で把握できます。
著者・松尾順(まつお・じゅん)さんについて
出典:https://twitter.com/matsuoty
松尾 順(まつお・じゅん)
プロセスマイニング・イニシアティブ代表。1987年早稲田大学商学部卒業。ニールセンジャパン、IT系シンクタンクでデータ分析を担当した後、広告会社、ITベンチャーにて主にマーケティング施策の企画・運営、効果測定に従事する。現在はプロセスマイニングのエバンジェリストとして、プロセスマイニングの導入・活用支援コンサルティングを行う。
プロセスマイニングが注目される背景
プロセスマイニングが注目される背景を著者は分析をしています。ここでは、サービスエコノミーの台頭と業務デジタル化のふたつの要因を整理して解説します。
サービスエコノミーにおける業務プロセスの改善・改革
SaaS(Software-as-a-Service)をはじめ、売り切り型ではないサブスク型の製品・サービスの存在感が増しています。企業としては安定した収益の獲得につながるため、多くがサブスク型のビジネスモデルを模索しています。
顧客のLTV(Life-Time-Value)をKPI(Key-Performance-Indicator)として、ロイヤリティ(忠誠心)を高めるためにCX(Customer Experience)をどのように改善するかが、サブスク型ビジネスモデルの課題です。
サービスエコノミーの台頭によるCX向上には、顧客との各タッチポイント(接点)において、一貫したサービスの提供が求められます。それを支えるのが企業の業務プロセスです。
昨今のビジネスでは、新しい製品・サービスを生み出してもすぐに模倣されてしまい、なかなか差別化につながらないのが現状です。一方、業務プロセスは一朝一夕では真似することが難しく、企業の競争力の源泉となり得ます。業務プロセス改善・改革に効果的なプロセスマイニングが注目される理由のひとつです。
業務デジタル化やリモートワークにより生じるブラックボックス
IT不在のかつての業務プロセスは属人的かつ非効率でしたが、社員一人ひとりが何をやっているか把握しやすい環境でした。ところがERPやCRM、MA(※)などのツールにより業務がデジタル化されると、オフィスを見回しても誰が何をしているか把握することは困難。さらに、コロナ禍によるリモートワークの普及がそれに追い打ちをかけました。
※ERP=基幹系の業務システム、CRM=顧客を管理するシステム、MA=マーケティングを自動化するツール
プロセスマイニングは、各システムが出力するイベントログをインプット(入力)として、業務可視化を実行できるため、ブラックボックス化(外側から内側の様子が見えなくなること)した業務を一目で鳥瞰することができます。
また業務プロセスをタイムスタンプ(時間の記録)に基づき時間軸で分析できるため、人間では知ることが難しかったさまざまな業務上のボトルネックや逸脱、非効率を把握することができます。
企業にとってプロセスマイニングが必要となるのは疑いようがありません。