日本でもプロセスマイニングに注目する企業も多くなり、PoC(概念実証)や本格導入が少しずつ進み始めました。しかし欧米諸国と比べると、日本のプロセスマイニングの普及・活用にはまだまだ課題が残ります。
本記事では、プロセスマイニングに関するコンサルティングを行うプロティビティ社のマネージングディレクタである佐渡友氏に、日本企業はプロセスマイニングにこれからどのように向き合えばいいのか話を聞きました。
【この記事でわかること】
- プロセスマイニングの活用方法と事例
- 日本でプロセスマイニング普及が進まない理由
- プロセスマイニング導入に求められる意識
プロフィール
佐渡友 裕之(さどとも ひろゆき)
アンダーセンコンサルティング東京事務所、デロイトコンサルティング ニューヨーク事務所および三菱総合研究所を経て、2019年プロティビティLLCに入社。
30年に渡るITコンサルティングの実務経験やIT関連事業開発の経験を活かし、現在プロティビティにてデジタル事業およびBPI (Business Performance Improvement)事業をリード。
プロセスマイニング、RPA、AIなどの最新のデジタル技術を用いた企業の組織改革と業務改善を支援している。
プロセスマイニング活用によるデジタルツイン
ーープロティビティではどのようなプロセスマイニングの導入支援を行なっていますか。
プロティビティは、プロセスマイニング活用による内部監査やリスク管理の高度化に重点的に取り組んでいます。私がプロティビティに参加した2019年頃からは、日本オフィスにおいてもBPI(Business Performance Improvement:企業のビジネスパフォーマンスの向上)にも力を入れ始めて、企業のオペレーションレベルでのKPI改善のご支援を始めました。もともとBPIは、プロセスマイニングの活用領域のメインフィールドですので、それと歩調を合わせる形になっています。
ーー具体的にはどのようなクライアントの課題を解決しているのですか。
一例として、大手エレクトロニクスメーカーの内部監査部様から購買業務(P2P)のコンプライアンスチェックに関するご依頼をいただきました。そのときは、プロセスマイニングツールのCelonisを導入して分析とモニタリングを行いました。
購買業務において注文書、納品書、請求書の内容が合致しているかどうかをチェックする手法をスリーウェイマッチングといいます。今回は、各書の合致率などをプロセスマイニングでチェックして問題ないことを確認し、さらに自動化率や処理時間、手戻り発生率なども具体的な数字として算出しました。
Celonisで全購買パターンを調査したところ、驚くべきは、先方の予想を大きく上回る数千パターンの業務プロセスが見つかったことです。そこには当然、本来あるべき業務プロセスからの逸脱やコンプライアンス上問題のある業務取り引きなどのリスクがあることが予想できるので、先方ではプロセスマイニングを監査業務の中で定常的に実施する運びとなりました。
ーー企業はプロセスマイニングをどのように活用していくべきでしょうか。
プロセスマイニングの最もベーシックな使い方は、業務プロセスの現状把握です。システムのイベントログがあれば、あらゆる業務プロセスのリアルな姿を具体的かつ定量的に把握することができます。この目的において、現在、プロセスマイニングを上回る手法はないといえます。
デジタルツインという概念をご存じでしょうか。これは、現実のさまざまな事物をデジタル上で再現する手法です。この手法の良いところは、施策の効果をコンピューター上でシミュレーションすることができる点です。
プロセスマイニングツールを活用すれば、組織や業務のデジタルツインを構築することができます。これにRPAによる自動化の効果などのさまざまなシミュレーションをかけることで、最も効果の高い施策を見つけられます。
プロセスマイニング導入の成否を分かつのは組織とヒト
ーー欧米と比べた日本のプロセスマイニング普及はどのように感じていますか。
個人的には、欧米と比べて日本のプロセスマイニングの普及は周回遅れだと考えています。欧米ではプロセスマイニングが2011年頃から使われ始め、多くの企業が日常業務の中でプロセスマイニングを活用し、企業パフォーマンスの向上を図っているのに対して、日本では2〜3年前からPoCが始まったばかりで、ようやく幾つかの企業が本格導入したという段階です。
プロセスマイニングに先行しているRPAは、もう日本企業で導入が始まってから5年近く経つでしょうか。ところが、企業全体ではなく事業単位や部署単位での導入が多く、デジタルの活用が部分最適化しており、全体最適になっていないという問題があります。
欧米ではRPAはもちろんプロセスマイニングも企業パフォーマンスの全体最適化を目的に活用されています。単なる技術の普及率だけではなく活用の成熟度においても、日本と欧米では隔たりがあります。
ーー日本でプロセスマイニングが正しく活用されるには何が必要ですか。
企業のDXを成功に導くためには技術のみならず、組織とヒトが重要です。デジタルトランスフォーメーションは文字通り「変革」なので、有期のプロジェクトとは違い、長期的な変革の旅路です。それには、トップの揺るがないコミットメントと、長いデジタルジャーニーを旅するための地図(デジタル戦略、戦略を具体的な施策に落とした計画など)と杖(プロセスマイニングなどのデジタル技術)が必要となります。
そして、変革しようとする企業の構成員(経営者と従業員)のマインドセットも重要になります。このデジタルジャーニーは常に新しい挑戦ですので、ときには失敗もあるでしょう。その失敗を許容し、完全ではない新しい技術を試し、ダメであれば次の技術に目を向けるという広い視野とアジャイルなマインドセットが経営にも従業員にも必要で、これが最後には組織としてのトランスフォーメーション力につながってきます。
日本企業はもっと危機感を持つべき
ーー欧米ではプロセスマイニングはどのように活用されているのでしょうか。
プロセスマイニング活用のステップを3つに分けるとします。1つ目のステップは、プロセスの可視化による現状(As-Is)把握です。2つ目のステップは、デジタルツインのような考え方を取り入れながら、理想の状態(To-Be)を発見し、それとの乖離度合いを把握すること。3つ目のステップは、プロセスマイニングをリアルタイムに用いて検証と修正を瞬時に行い、アクションの最適化をはかることです。
欧米の企業はすでに3つ目のステップまで到達しています。日本はまだまだステップ1を始めたばかりの状態。我々としては、この事実に強い危機感を感じています。プロセスマイニングの有用性はすでに欧米での活用事例を見れば証明されているため、引き続き啓発普及、そのためのご支援に邁進していきます。
まとめ:デジタルに対する意識改革が急務
よくDXに大事なのはデジタルではなくトランスフォーメーション、つまり変革の方だといわれます。プロセスマイニングの普及においても同じことがいえるのではないでしょうか。技術そのものよりも、むしろ組織およびそこに属する経営者や社員一人ひとりの意識の変革が急務であることが、この記事で伝えたかったことです。
これを機にプロセスマイニング導入への考え方がアップデートされたとお感じの方がいましたら幸いです。
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