タスクシフトとは?タスクシフト・シェアの導入によるメリットとデメリット

医療業界では、人材不足や長時間労働といった働き方に課題を抱えていることが多いです。さまざまな業界でIT化が進む中でなかなか移行できていないことも原因のひとつに考えられます。

IT化による業務効率化の他にも「タスクシフト・タスクシェア」によって、医師の業務改善を図れることをご存知ですか?

この記事では、タスクシフト・タスクシェアの導入によるメリットデメリット、今後のタスクシェアを推奨している業務についてご紹介します。

タスクシフト・タスクシェアとは?医療現場の業務効率化を図ろう

医療業界では、人手不足や業務負担の多さなどを課題に感じているケースが少なくないです。医療現場の業務効率化を図る手段にタスクシフト・タスクシェアがあります。

はじめにタスクシフト・タスクシェアの意味について解説します。

タスクシフトの意味と具体例

タスクシフトとは、看護師や臨床検査技師といった他職種に、医師の業務の一部を任せる「業務移管」のことです。2015年に「特定行為に係る看護師の研修制度」が創設されたのを機に、近年では他職種の専門性が高まってきています。

具体的には、「特定行為に係る看護師の研修制度」の創設によって、看護師は医師の指示の下で人工呼吸器の離脱や気管カニューレの交換など「38の医療行為」の実施が可能です。

なお、現在は看護師だけでなく、診療放射線技師や臨床検査技師、臨床工学技士に医師の業務をタスク・シフトできるよう法改正の検討もされています。

タスクシェアの意味と具体例

タスクシェアとは、医師の業務を、看護師や臨床検査技師といった複数の他職種で「業務を共同化」することを指します。タスクシェアは職種を超えて業務を分担し、業務負担を軽減する方法です。

具体的には、医師の代わりに薬物治療の中心を担えるよう、薬剤師へのタスクシェアについて検討が進行中です。この場合、医師との協働によるプロトコルに基づいた投薬の実施、多剤併用に対する処方提案、抗菌薬の治療コントロールなどが挙げられます。

タスクシフト・タスクシェアが医療業界に必要な理由

医療業界の働き方改革推進が進められていることがタスクシフト・タスクシェアが必要とされる理由です。2019年、厚生労働省が実施した「医師の勤務実態調査」でも、男女問わず医師の3〜4割が月80時間以上の時間外労働がわかっています。

医療業界の働き方改革が急務との考えから、現在タスクシフト・タスクシェアを推進しているところです。また、2024年4月には医師に対する時間外労働の上限規制の適用を開始することも決定しています。

参考:厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査 <概要>」

参考:厚生労働省「医師の働き方改革について」

タスクシフト・タスクシェアを導入する3つのメリット

メリットは下記の3つです。

  • 医師の業務負担を軽減する
  • 人材不足を解消する
  • 医療の質を高める

導入することは働き方改革の他に、医療の質を高めることにもつながります。人手不足が叫ばれている医療現場で、医療の質を向上させ、業務負担を軽減していくには、タスクシフト・タスクシェアが必要不可欠です。

1.医師の業務負担を軽減する

最大のメリットは、医師の業務負担を減らせる点です。医療業界では、業務時間外労働が課題とされており、早急に改善していく課題に挙げられています。

導入が実現できれば、医師に集中する業務の負担を軽減し、長時間労働の削減に役立てられるでしょう。

2.人材不足を解消する

タスクシフト・タスクシェアを取り入れることで、これまで医師だけが担当していた業務を、看護師といった他の職種の人材でも実施できます。業務シェアができれば、職種間での連携力が高まり、少ない人数でも多くの業務をこなすこともできるでしょう。

医師だけに依存しない働き方を実現することで、業務の効率化を図ることが可能になり、人材不足の解消にもつながるのです。

3.医療の質を高める

業務改革だけでなく医療の質を高めることにもつながります。日々医療技術が高度になっていく中で、医師にしかできない業務は精度の高いものが求められるようになっているのも実情です。

タスクシフト・タスクシェアが進むことで医師は医師にしかできない業務に集中することが可能となっていくでしょう。

タスクシフト・タスクシェアを導入する上での3つの課題

ここまで、タスクシフト・タスクシェアを導入するメリットを解説しました。一方タスクシフト・タスクシェアを導入する上での課題もあるため、計画なく導入することは避けるべきでしょう。

ここからはタスクシフト・タスクシェアを導入する上での3つの課題について解説します。

  • 業務を移管する職種人材の育成が必要
  • タスクシフト・タスクシェアに対する理解度が低い
  • 人材が不足していて導入が難しい

1.業務を移管する職種人材の育成が必要

課題1つ目が、医師以外の職種人材の育成です。導入前に、必ず指導方針や研修方法について検討していくことが欠かせません。育成フローが統一されていないままだと、人によって医療業務の質にばらつきが出る場合も少なくないです。

2.タスクシフト・タスクシェアに対する理解度が低い

そもそもタスクシフト・タスクシェアの重要性が、医療現場では理解が進んでいないことも課題のひとつです。医療業界の働き方改革を行う重要性や緊急性をまずは医療現場の人へ理解を進めていくことも、導入前には必要といえます。

また、本来医師にしか認められていなかった業務を看護師や薬剤師などの他職種が行っても問題ないかを不安に感じる人もいるでしょう。導入前には、理解度を高め共通認識を持てるように研修などを行うのも方法のひとつです。

3.人材が不足していて導入が難しい

医療業界の人材不足解消に期待できるものの、そもそもタスクをシフトしたりシェアしたりできる人材が不足していると導入することが難しいという課題があります。

具体的には、タスクシフト・タスクシェアされる看護師自体が激務で人手不足に悩んでいるという現状も導入を難しくさせている要素のひとつでしょう。

また、特定行為研修制度を修了した看護師は2022年3月時点で令和4年3月現在で4,832名とまだ少ないため、導入したくてもできていない医療現場も多いと考えられます。

特定行為研修制度とは、看護師が特定行為に指定された38の医療行為を手順書によって実施できるよう、理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能の向上を図るための研修です

しかし、看護師からは、研修を受講したくても仕事との両立の難しさを感じる、受講費用の負担が大きいなどの負担の声もあります。看護師の労働環境の改善を放置したままでのタスクシフト・タスクシェアの導入はかえって業務効率が下がるリスクもあるのです。

参考:厚生労働省「資料4 特定行為研修制度の推進について」

参考:公益社団法人日本看護協会「特定行為研修制度とは」

参考:厚生労働省「【特定行為に係る看護師の研修制度】研修を修了した看護師について」

【職種別】タスクシフト・タスクシェアが可能な業務

タスクシフト・タスクシェアが可能な業務は職種ごとに異なります。

今回の記事では看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士ができるタスクシフト・タスクシェアできる業務をご紹介します。

参考:厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」について

1.看護師がタスクシフト・タスクシェアできる業務

タスクシフト・タスクシェアの推進で最も期待されている職種が看護師です。中でも、特定行為研修を修了した看護師を配置することで、看護師が担える業務の幅は拡大し、働き方は大きく改善が見込まれるでしょう。

具体的には、下記のような業務がタスクシフト・タスクシェアできるようになります。

  • 人工呼吸器からの離脱
  • 薬剤の投与量の調節
  • 血管造影・画像下治療(IVR)の介助
  • 注射、採血、静脈路の確保等
  • カテーテルの留置、抜去等の各種処置行為
  • 診察前の情報収集

2.薬剤師がタスクシフト・タスクシェアできる業務

薬剤師がタスクシフト・タスクシェアできる業務は下記の通りです。

  • 手術前後一連の期間での薬学的管理
  • 病棟などにおける薬学的管理
  • 事前に取り決めたプロトコルに沿って処方された薬剤の投与量の変更
  • 薬物療法にまつわる説明
  • 医師への処方提案といった処方支援
  • 自己注射や自己血糖測定などの実技指導

薬剤師には医師のサポート、さらには安全性と効果の高い投薬の実施にも期待されています。

3.臨床検査技師がタスクシフト・タスクシェアできる業務

2021年10月からは臨床検査技師も下記の業務をタスクシフト・タスクシェアできるようになりました。

  • 直腸肛門機能検査
  • 針電極による脳波検査
  • 持続皮下グルコース検査
  • 成分採血装置を接続・操作
  • 超音波検査時に造影剤を注入
  • 消化管内視鏡検査・治療時に生検組織を採取
  • 検査のため、経口・経鼻・気管カニューレから喀痰を採取

4.診療放射線技師がタスクシフト・タスクシェアできる業務

診療放射線技師も2021年10月から業務範囲が拡大しました。タスクシフト・タスクシェアできる業務は下記の通りです。

  • IVR(画像下治療)時に、動脈路からの造影剤を注入
  • 上部消化管造影検査の際に鼻腔カテーテルから造影剤を注入
  • 下部消化管造影検査時に、肛門カテーテルから造影剤や空気を吸引
  • 医師や歯科医師の指示で、病院外へ出張して超音波検査を行う

5.臨床工学技士がタスクシフト・タスクシェアできる業務

臨床検査技師も、2021年10月から業務範囲が拡大し下記の業務を行えるようになりました。

  • 血液浄化のとき動脈表在化や静脈に穿刺
  • 内視鏡外科手術の際に内視鏡ビデオカメラの保持と操作
  • 心管や血管カテーテル治療の際に、電気的負荷のスイッチを押す

6.その他タスクシフト・タスクシェアできる職種

その他、救急救命士、助産師などもタスクシフト・タスクシェアができる職種に挙げられます。

救急救命士

救急救命士は、2021年10月から業務範囲が拡大された職種です。

これまで医療機関に搬送されるまでの間に限定されていた救急救命措置が、救急外来でも実施が可能になりました。看護師の業務サポートができたり休日や夜間のオンコール要因としての配置も増加してきています。

助産師

助産師もタスクシフト・タスクシェアができる職種です。主に助産師外来や院内助産の設置が推奨されています。

助産師外来では、妊娠経過に異常のない妊婦を対象として、妊婦健診や保健指導をおこなうことが可能です。また院内助産では、同じく妊娠経過に異常のない妊婦を対象に助産師が中心となって分娩管理を行うことを指しています。

助産師がタスクシフト・タスクシェアできることで、リスクの高いお産に医師が集中できる環境を作ることができるのです。

法令改正によってタスクシフト・タスクシェアが推奨されている業務

2024年の医師への時間外労働の上限規制の適用に向けて、2021年5月には医師の働き方改革に関連する法律も改正されています。

今後タスクシフト・タスクシフトが推奨される業務についても下記を参照しておくことをおすすめします。

診療放射線技師 ・動脈路に造影剤注入装置を接続する行為

・動脈に造影剤を投与のため造影剤注入装置を操作する行為

・下部消化管検査のために注入した造影剤および空気を吸引する行為など。

臨床検査技師 ・直腸肛門機能検査におけるバルーンおよびトランスデューサーの挿入

・空気の注入ならびに抜去

・機器の装着および脱着を含む持続皮下グルコース検査の実施

・運動誘発電位検査

・採血に伴う静脈路を確保し、電解質輸液に接続する行為など。

臨床工学技士 ・血液浄化装置の穿刺針

・体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラを保持する行為

・術野視野を確保するために内視鏡用ビデオカメラを操作する行為

・手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療において、生命維持管理装置や輸液ポンプ、シリンジポンプに接続するために静脈路を確保し、接続する行為

・輸液ポンプやシリンジポンプを用いて薬剤を投与する行為など

診療放射線技師 ・造影剤を使用した検査やRI検査のために静脈路を確保する行為

・RI検査医薬品を注入するための装置を接続し、当該装置を操作する行為など

参考:都道府県医師会 医師の働き方改革担当理事 連絡協議会

医療業界における業務改革は人手不足の解消が重要

この記事では、医療業界の業務改革の手段である「タスクシフト・タスクシェア」について解説してきました。

人手不足の課題を抱えている現場は非常に多いのが現状です。課題解決に向けて2024年には、医師の時間外労働の上限規制がされることになりました。

医師のタスクシフト・タスクシェアを導入するには、まず人手不足の解消を図るための工夫が必要です。研修制度を整えたり、属人化を解消するためにマニュアルを整備したりするなど人手不足の解消を図った上で業務改善を行っていくことをおすすめします。

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