昨今では、多様性への理解が推進されています。ビジネスを前進させるためには、あらゆる出自や思想を持つ従業員が、自分の意見を自由に発信できる場が重要です。安心して自己発信できる環境に欠かせない要素が、「心理的安全性」です。
今回は、心理的安全性の意味やメリット、心理的安全性が高い職場をつくるためのポイントなどをご紹介します。心理的安全性が担保されているチームでは、独創性が高いアイデアが数多く生まれ、風通しの良い職場づくりも進んでいくでしょう。
心理的安全性とは?
心理的安全性とは、従業員が周囲からの反応を恐れずに自分の意見を発信できる環境を指します。自分の発言や行動によって、誰かから非難されたり拒絶されたりする不安を感じずに、安心して自分らしさをオープンにできる状態です。
チームや企業は他人同士が集まる場であり、同じコミュニティに属している人同士でもさまざまな価値観を有しています。性格や発言力、発信力なども人それぞれであり、お互いの関係性によって言いにくさ・言いやすさなども変わるものです。
しかしビジネスの産出において、自分の意見を安心して発信できる環境は非常に重要です。心理的安全性が担保されることで、すべての従業員が周りに不要な気を遣わずに自己発信ができ、全員がフェアな精神を持ちながら歩みを進められるでしょう。
心理的安全性が注目される理由
ビジネスの発展において、職場の良質な環境づくりは重要なポイントです。以前から「風通しの良い環境」や「自分の意見を言いやすい環境」などの概念については意見が交わされてきましたが、それらを包括する言葉として2016年に「心理的安全性」というキーワードが提唱されました。
心理的安全性に関する発表は、Googleが行った研究結果によるものです。同社が2012年から独自の調査を行った結果、「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」という結論が生まれました。
日本で心理的安全性の広まりは、以前から推進されている労働改革(働き方改革)も影響しています。労働改革推進では、さまざまなライフスタイルを持つ従業員一人ひとりが働きやすい環境を整備するために、多様な働き方が選択できる社会をビジョンとして掲げています。
法律が適用されるのを待ってから会社の仕組みを変えるのではなく、日頃から働きやすい環境を整備し、検証と改善のサイクルを回し続けることが重要です。心理的安全性の確保は、多様な生き方を持つ従業員たちが働きやすい職場を築くために欠かせないプロセスでもあるのです。
心理的安全性が高い職場の4つの特徴
心理的安全性は数値で測りにくく、定量化が難しい傾向にあります。そのため心理的安全性を調べるためには、環境が構築される因子について理解することが大切です。
心理的安全性の高い職場は、下記の4つの因子で成り立っています。
- 話しやすさ
- 助け合い
- 挑戦
- 新奇歓迎
ここでは、心理的安全性を確保するために必要な4つの因子を一つひとつご紹介します。
1.話しやすさ
心理的安全性が高い職場では、お互いに話しやすい関係性が築かれていることが特徴です。コミュニケーションにおいて性別・年齢・キャリアなどの壁が取り払われており、誰でも気軽に意見を発信できる環境が整っています。
例えば、威圧的な上司やキャリアを鼻にかけるような従業員がいる場合、心理的安全性は下がってしまうでしょう。お互いを一人の人間として尊重し、意見を受け入れ合えるような信頼関係が構築されている場合、心理的安全性は高まっていきます。
2.助け合い
助け合いの精神が浸透している職場では、心理的安全性が高まります。仕事中にトラブルがイレギュラーが発生した場合、心理的安全性が担保されていない職場では問題を一人で抱え込んでしまいがちです。
なぜなら「迷惑がられたらどうしよう」「自分の評価が下がってしまうかもしれない」と不安を感じ、自力で解決しようとしてしまうからです。日頃から信頼関係が築かれている環境では、困ったときは助け合う姿勢が基本になるため、安心してヘルプを発信することができます。
3.挑戦
心理的安全性が高い職場では、従業員の挑戦に対して寛容です。失敗が許される環境が整っているため、従業員は安心して新しいアイデアを提案したり、新しい物事にチャレンジしたりできます。
もし失敗しても、心理的安全性が担保されていれば闇雲に責められることはなく、次回につながる反省として生かせます。従業員同士が応援・サポートをし合える環境であり、変化に対して積極的です。ポジティブな精神状態のまま競争意識が高め合えるでしょう。
4.新規歓迎
心理的安全性が高い職場は、変化を前向きに受け入れる姿勢を持っています。新人や新規事業などにも柔軟に対応し、チームをより良い方向に変えていきます。新しい物事を嫌わず、受け入れる精神を持っていることが特徴です。
基本的に人間は、現状の環境が変化することに対してストレスや不安を感じるものです。心理的安全性が高い職場の従業員も同様の感性を持っていますが、ストレスと同じように未来への期待やチームへの肯定感も抱いているため、変化に対する拒否反応を乗り越えられるでしょう。
心理的安全性が低い職場の特徴
心理的安全性は、ハーバード大学の組織行動学者であるエドモンドソン教授により提唱されたことで注目を集めました。エドモンドソン教授は、心理的安全性を担保するためには「4つの不安」をクリアする必要性があることを示唆しています。
ここではエドモンドソン教授が提唱した「4つの不安」に基づきながら、心理的安全性が低い職場の特徴をご紹介します。
参考:ダイヤモンド・オンライン「心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C. エドモンドソンに聞く」
1.無知だと思われる不安
心理的安全性が低い職場では、自分が無知だと思われる不安を抱きがちです。
業務で疑問や不明点があっても周囲に質問できず、他者から見たときの自分の評価ばかりを気にしてしまいます。質問することに恥ずかしさを感じ、「無知が露呈すると馬鹿にされるかもしれない」と思ってしまうでしょう。
2.能力がないと思われる不安
能力や知識には人それぞれ個人差があって当然です。しかし心理的安全性が低い職場では、周りに助けを求めることに対して「無能だと思われるかもしれない」と不安が芽生えます。
わからないことは聞く・つらいときはサポートを求めるという社会の基本を見失ってしまうのです。
3.邪魔をしていると思われる不安
心理的安全性が低い職場では、他者にどう思われるかばかりを意識してしまいます。
周りのペースを乱すことを大きな罪のように感じ、ヘルプが必要な環境でも「相手の邪魔になるかもしれない」と感じ声をあげられません。必要以上に相手を気遣ってしまい、自身でトラブルやストレスを抱え込んでしまうでしょう。
4.ネガティブだと思われる不安
心理的安全性が低いと、周りから自分がどのように見られているのかを強く気にしてしまいます。
特に「ネガティブだと思われると嫌われてしまうかもしれない・使えない奴だと思われてしまうかもしれない」という不安は抱きやすく、相手の印象を操作するために無理に明るく振る舞ったり、自分を誤魔化したりしてストレスを抱えてしまうでしょう。
心理的安全性が高い職場にする5つのメリット
ここでは、心理的安全性が高い職場にするメリットを5つご紹介します。
心理的安全性の確保は業務の生産性だけではなく、従業員の帰属意識も高めます。メリットを把握した上で業務環境の改善に役立てていきましょう。
1.仕事のパフォーマンス向上
心理的安全性が高い職場では従業員のパフォーマンスが向上し、生産性が上がることが期待できます。疑問点を周囲に質問しやすい環境が整っているため、トラブルが発生しても円滑に解決に導けるでしょう。
必要以上に相手に気を遣いすぎる必要がないため、コミュニケーションコストが下がり効率的に業務に励めます。新しいアイデアを創出しやすい環境で働け、現状の課題におけるスムーズな解決も見込めます。
2.コミュニケーションがとりやすい
心理的安全性が高い職場では、コミュニケーションがとりやすいことが特徴です。相手の人間性への尊重を前提としたコミュニケーションがとれるため、自分の意見を恐れずに発信できます。
「嫌われるかもしれない」「迷惑がられるかもしれない」と不安を抱えたままのコミュニケーションでは、必要以上に言葉を選んだり本音を言いにくかったりするものです。心理的安全性の高さは、自分の気持ちを素直に表現し合えるための土壌として求められます。
3.離職防止につながる
心理的安全性の高さは、離職防止にもつながります。社会において、本音を言い合える環境や人間関係に恵まれた環境は、当たり前に存在しているものとはいえません。現状の職場環境への満足度が高いほど、企業への帰属意識が強まります。
業務形態や報酬などに不満を抱えた場合も、心理的安全性が高ければ事前に相談が可能です。心理的安全性の高さは、従業員の不安やストレスをスムーズに引き出す役割も担っているのです。
4.多彩な人材を採用しやすくなる
心理的安全性が高い職場では、多彩な人材を採用しやすくなります。なぜなら職場やチーム自体が多様性を尊重する文化を持っており、異なるバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境が整っているからです。
またお互いを尊重する文化はチームワークの強化にもつながり、オープンなコミュニケーションをとりやすくなります。お互いの強みや特性を生かしたグループワークに前向きな姿勢を持っているため、従来とは異なる特性を持った新規人材を歓迎します。
5.不祥事を回避できる
心理的安全性が高い職場では、メンバーが自分の考えを自由に表明できるため、問題点や危険性を事前に共有しやすくなるでしょう。その結果、メンバー同士で課題解決のための意見交換ができ、不祥事やトラブルを回避できる可能性が上がります。
また従業員たちは、風通しが良い現在の環境を守るために、自治の一貫として誠実なコミュニケーションを心がけます。情報を隠したり偽ったりする従業員の発生を防止できるため、不必要なトラブルの発生を抑えられるでしょう。
心理的安全性の高い職場の作り方
ここでは、心理的安全性が高い職場を作る際のポイントをご紹介します。
理想的な職場のビジョンは、在籍する人間によって異なるものです。従業員にアンケートやリサーチを行いながら、表面化されていない課題を取り入れつつ改善を行っていきましょう。
1.質問や相談がしやすい
心理的安全性が高い職場を実現するためには、質問が相談しやすい環境であることが求められます。従業員は「自分が一人の人間として尊重されていない」と感じたときに不安や不満を感じるものです。
相手を対等に認識していることを伝えるために、コミュニケーションの基本に立ち返ることが大切です。挨拶・メール・チャットを無視しないことや、雑なフィードバックにならないよう心がけることから始めましょう。
2.誰でも発言の機会がある
心理的安全性では、キャリアにかかわらず誰にでも発言の機会があることが求められます。例えばミーティングの進行をスムーズにするためにアジェンダを共有したり、一人の発言時間を制限した上で全員に機会を与えたりなどが有効です。
業務への不満のような発言しにくい内容の場合は、匿名性を保証できるシステムの導入が推奨されます。意見箱やアンケートなどを用意し、平等な発言権の存在をアピールしましょう。
3.業務外でも会話ができる
業務外でも会話ができるような関係性は、心理的安全性のために重要です。無理に業務外でコミュニケーションをとる必要のない環境を整えた上で、雑談を楽しめるようなコミュニケーションツールを導入してみましょう。
例えばチーム内のチャットツールの中に、雑談専用のスレッドを作成する方法がおすすめです。会社の中に休憩所とは別にコミュニケーションスペースを作ったり、ソーシャルイベントを開催したりする方法も良いでしょう。
4.挑戦や提案を歓迎する
心理的安全性を高めるためには、挑戦や提案を歓迎する環境づくりを心がけます。オープンなコミュニケーションを基本に置きつつ、失敗を許容する文化や丁寧なフィードバックを取り入れていきましょう。
具体的には、社内コンテストやアイデア募集企画などの導入が推奨されます。キャリアにかかわらず、従業員たちが自分たちのアイデアを発表して評価される場を提供することをおすすめします。
5.個々の価値観を尊重する
心理的安全性が担保された職場では、自身の価値観や感情を言葉にすることに不安を抱かせません。個々の価値観を尊重する環境のためには、多様な背景を持つ社員を採用することが推奨されます。
他には、多様性を反映したイベントの開催も効果的です。例えば異なる国籍や出自を持つ従業員が、お互いの文化や伝統を紹介し合う交流会の開催をおすすめします。多様性の尊重のためには、企業が各々のあり方や価値観を尊重する方針を明確にすることも重要です。
6.感謝の気持ちを伝え合う
感謝の気持ちを伝え合う文化が定着しているチームでは、心理的安全性が高まる傾向にあります。手軽に取り入れる方法の一つとして、チャットツール内に「従業員同士で感謝を伝えるためのスレッド」を作成する方法がおすすめです。
リモートワークが広まる昨今では、現実だけではなくデジタル上のコミュニケーションで感謝を伝え合えるシステムの構築が求められます。フィードバックや1on1の機会を増やすことでも、感謝を伝え合うシーンが増加するでしょう。
7.評価方法の見直し
心理的安全性を高めるためには、評価方法の見直しが効果的です。従業員それぞれの能力やスキルを重視した目標設定を行いつつ、個人の強みを生かすような人事が求められます。
特に、上司以外の従業員の評価を受けられるシステムの導入はおすすめです。他部署の従業員や同僚、部下からも評価を得ることで、結果に対する納得感が高まり、個人のスキルもより正確に把握できるようになります。
8.サポート体制の整備
心理的安全性のためには、社内のサポート体制を整備することが求められます。例えばカウンセリングや相談支援の提供は、従業員がストレスを抱え込まないためのサポートになるでしょう。
さらにメンバー同士の信頼関係の構築を後押しするために、チームビルディングの実施が求められます。ワークショップやアクティビティを通し、相互理解につながるポジティブなコミュニケーションを重ねていきましょう。
心理的安全性を高め、従業員が働きやすい職場をつくろう
今回は、心理的安全性の意味やメリット、心理的安全性が高い職場をつくるポイントなどをご紹介しました。心理的安全性を担保するためには、業績やコンバージョン率などの数値だけでは測れない従業員の内面性に注目する必要があるのです。
まずは現状の不満・不安・課題を可視化するために、内部リサーチやアンケートを行うことをおすすめします。オープンマインドを推奨する企業の方向性を改めて提示することも大切です。心理的安全性を高め、従業員が自分らしく働ける企業として生産性を向上していきましょう。