欧州で誕生したプロセスマイニング。海外ではかなり浸透していますが、日本ではまだ一般的に語られることは少なく、アクセスできる情報にも限りがあります。ツール導入という手段に固執するあまり、大切にするべき「本来の目的」を見失う企業も少なくありません。
本記事では、プロセスマイニング協会の業務執行理事である三ッ森隆司(みつもり・たかし)氏に、プロセスマイニングツールを検討・導入するときの考え方や、プロセスマイニングの活用事例について話を聞きました。
プロフィール
三ッ森 隆司(みつもり・たかし)
1959年生まれ。1983年に一橋大学経済学部を卒業後、アーサーアンダーセン(現アクセンチュア)入社。コンピュータ・アソシエイツ(CA)、日本NCR、ポリコムの3社にて代表取締役を歴任。現在はProtivitiでエグゼクティブ・プリンシパルを務める傍ら、プロセスマイニング協会の業務執行理事としてプロセスマイニングの啓蒙・普及活動に取り組む。
プロセスマイニング導入は経営陣がトップダウンで進めるべき
ーーヨーロッパを中心にプロセスマイニングの導入が進んでいますが、日本企業の興味・関心はどのように感じていますか。
今の世の中でDX(デジタル・トランスフォーメーション)に興味を持たない日本企業はいません。ところが、DXをどこから始めればいいのかわからずに困っている企業が多い。彼らのDXを正しく支援できる知識やノウハウのある事業者は少ないのが現状です。
プロセスマイニングの導入は、DXを進める最初の一歩として適しています。プロセスマイニングの目的はさまざまですが、本質は企業活動の「見える化(モニタリング)」です。これはDXにとても役に立ちます。今はまだ黎明期ですが、日本企業の興味・関心がこれから高まるでしょう。
ーー企業担当者はどのようにプロセスマイニングツールを比較・検討するべきでしょうか。
企業活動を「見える化」することで何を実現したいのか、プロセスマイニングツールを導入する「目的」を明確にすることが大切です。一例ですが、プロセスマイニングツールを用いると業務プロセスを詳細に分析できるため、課題を特定してそれを解決することで業務を効率化できます。
プロセスマイニングツールの導入を外注するときは、目的が一番のよりどころとなります。例えば、“刀屋さん”がプロセスマイニングを売る業者、“侍”がユーザー企業だとしましょう。
刀屋さんは、侍の現状(環境や能力)はどうで、どういう戦い方をしたいのか、刀の使い方(目的)がわからないと、ふさわしい刀(手段)を選んであげることはできません。刀の選択には侍の命がかかっていますから、刀屋さん(業者)も適当におすすめすることはできません。刀を使って何をしたいのかを知ることなく刀について語るのは、ただの刀オタクであり、侍が刀を決めるときの考え方ではありません。
プロセスマイニングツール導入についても同じことがいえます。目的を決めずに手段であるツールについて語るのはナンセンスです。目的を明確にするからこそ、適切なツールを選択できるのです。
現状(環境や能力)についても、例えばSAPの導入されている環境ならCelonis(世界シェア首位のプロセスマイニングツール)が導入しやすい可能性もある、というように、システムとの相性や各ツールの特徴はさまざまです。企業の環境に合わせて十分に検討するべきです。
※SAP…ドイツ企業が展開するITシステム
ーー日本企業は手段であるツール導入を目的にしてしまう傾向があります。
プロセスマイニングツールの導入は経営層がトップダウンで進めるべきです。米国や中国などでは特にそのような場合が多い。
プロセスマイニングは企業の活動を「見える化」する概念です。この「見える化」するという手段は、経営層にとっては、自社の業務における問題を見つけて改善するというような目的の場合には有効な手段のひとつになりえます。トップから改善のアクションをしやすい方法だからです。
なので、DXあるいは業務改革担当者の方もトップダウンの視点から、「見える化」することで何をしたいのか、目的意識を常に持って、自社にとっての最適なツールの導入を考えてほしいと思います。
企業にはさまざまな思惑を持つ社員がいますから、自分の業務がプロセスマイニングによって「見える化」されると困る人もいます。経営層は、誰かを責めるためにツールを導入するのではない、「見える化」することで何をしたいのか、トップダウンで明確に目的を全社員に伝えることで、誤解や抵抗を避けてプロセスマイニングによる手法によるプロジェクトをスムーズに実行できます。
プロセスマイニングは小さく始めてすぐに検証、それからスケールさせる
ーープロセスマイニングツールを導入するときに障害となることは何ですか。
プロセスマイニングでは、ITシステムから抽出したイベントログが必要です。しかし、イベントログをそのままプロセスマイニングに使えない場合もあります。例えば、データの形式がバラバラな場合やそもそもプロセスマイニングツールで必要なイベントログが存在しない場合などです。
プロセスマイニングツールを導入する目的が明確なら、その目的のために(見える化をするために)イベントログを既存システムの仕様を変更してでも作り出すことも必要かもしれません。この作業には時間と労力がかかることもありますが、本当に「見える化」して目的が達成できるのであるなら、取り組んだ方がいい。もちろん、ROI(投資対効果)が見合うことが前提ですが。
「イベントログが無いから見える化できない」と考えるのではなく、「見える化するために、イベントログを出す工夫をしよう」と考えることが重要です。
そして、プロセスマイニングを導入するときは、小さく始める(スモールスタート)ことを意識するといいと思います。
刀屋さんでいえば、侍は自分の命をかける刀を選ぶときには試し切りをしたいと思いますよね。どんなに明確な目的があったとしてもPoC(実証実験)なしに企業は新しい分野に多額の投資をしません。
小さく始めて効果が確認できたら範囲を広げればいいんです。ただし何となくPoCをするのではなく、ここでも目的をもって、PoCをして検証していくことが重要です。
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