プロセスマイニングとは、業務のプロセスを可視化・分析し業務課題の解決に役立てることができるツールのひとつです。業務改善に悩みを抱えている経営者は多くいますが、課題の可視化ができずに、何から改善を測れば良いのかを悩むケースも少なくありません。
そこでこの記事では、プロセスマイニングについてわかりやすく解説し、さらに後半では事例や具体的なツールの紹介もしていきます。
業務改善を検討している場合や、プロセスマイニングの利用に迷っている方はぜひ参考にしてみてください。
プロセスマイニングとは「業務プロセスの可視化」
プロセスマイニングとは、イベントログに基づいてビジネスプロセスの分析を行なう技術のことです。かみ砕くと、業務で使っているシステムのログを基に業務の可視化や分析を行う手法を指します。
取得するログは
- SAPやSalesforceなどのメジャーな業務システム固有のイベントログ
- Windowsのログ
- マウスやキーボード操作ログ
- 操作画面のキャプチャ
などがあり、ツールによって収集するログや可視化できる項目が異なります。
また、特定業務のワークフローを可視化するものを「プロセスマイニング」、全体の業務量を可視化するものを「タスクマイニング」と分類する場合もありますが、プロセスマイニングラボではどちらもプロセスマイニングと定義して解説します。
プロセスマイニングの仕組み
そんな便利なプロセスマイニングですが、どんな仕組みで業務の可視化ができるのでしょうか?プロセスマイニングの仕組みについて詳しく解説していきます。
プロセスマイニングは、下記の4つのステップで行います。
- 端末のログを収集する
- 業務内容・フローを可視化する
- 改善すべき業務を絞り込み、施策の優先順位を検討する
- パフォーマンスを継続して監視し、PDCAサイクルを回す
はじめに、プロセスマイニングでは、SAPやSalesforceといった固有のイベントログ、操作ログなどの端末のデータを収集し、イベントログに変換します。
イベントログには、タイムスタンプ、ケースID、アクティビティなどの情報が含まれています。
次に、イベントログからプロセスグラフを自動的に作成します。プロセスグラフで確認できる主な内容は下記の通りです。
- 各ステップのタイミング
- プロセスフローの変動
プロセスマイニングを使用する目的は、業務の最適化や自動化に取り組むためです。プロセスマイニングがあれば、施策に取り組む前に現状の課題を明確に洗い出し、ファクトベースの情報が得られるでしょう。
プロセスマイニングで業務の可視化ができたらいよいよ施策の実行です。改善すべき業務や自動化ができる業務に対してデータを基に、有効な施策を試していきましょう。
このサイクルを繰り返していくことで、業務を常に改善しアップデートしていくことができます。
プロセスマイニングでできること
プロセスマイニングを活用することで、主に下記の3つができます。
- 現状の業務可視化
- 現状の業務課題分析
- 業務改革の効果測定
PCやブラウザのログを収集することで、業務は「誰が」「どのように」作業しているかを可視化するだけでなく、どのように改善すべきかを見つけ出す際に役立つのです。
改善点を見つけ出し施策を打ち出す。そしてまた改善を繰り返す業務のPDCAサイクルを回すためには、プロセスマイニングツールの活用が欠かせません。
現状の業務可視化
PCやブラウザのログを収集することで、「誰が」「何を」「どれくらい」やっていのか可視化することができます。どれくらいの粒度で可視化することができるかはツールによって違いますので導入前に検証の必要があります。
従業員を監視するツールに似ていますが、データを業務改革に活かすためには「Excelを1日5時間使っている」というような粒度のデータでは活用できません。「〇〇向けの広告運用レポートExcelの作成に毎月2時間使っている」など具体的な業務と改善方法がイメージできるデータを示すことができるプロセスマイニングツールが業務改革に向いています。
現状の業務課題分析
効率化したい特定の業務が見つかった後に、システムのイベントログを収集することによってその業務の手順やリードタイムを詳細に可視化する機能を使うことで業務課題を分析できます。
例えば、請求書の処理業務を対象とする場合には1月の中で何件の請求書処理をしていて、処理にかかる平均の時間や確認の手順などがフローチャートとして現れます。このデータが、最適プロセスへの標準化やボトルネックとなっている箇所のシステム化などの施策を考える材料となるのです。
さらに業務のなかで発生するイレギュラーな対応も網羅的に洗い出せます。例えば「請求書の必要な項目が空欄だったので差し戻しの手順を行う」ことや「緊急対応のため、所定の手順をスキップして入金処理を行うケース」などです。このような場合でもシステム化の際には例外パターンを完璧に要件定義できることも大きなメリットです。
業務改革の効果測定
業務改革はシステム化などの施策を行ったらそれで終わりではなく、施策実行によってどのような効果があって、どの箇所ではまだ課題が残っているかを検証し、次の施策実行へと繋げていくサイクルが重要です。
プロセスマイニングを継続的に活用することでこのサイクルを効率的に回すことができます。常に取得している業務ログデータが蓄積されるため、施策実行後と実行前で業務の中でどのプロセスにどのような効果があったのか(または無かったのか)をファクトベースで把握することが可能です。
これを従来方法で、人力でヒアリングして調査する場合かなりの労力が必要になります。
このデータをもとに今後どのようなシステム投資が必要か、継続的に業務改革を推進する体制が実現します。
プロセスマイニングのメリットとデメリット
プロセスマイニングには様々な効果があることはわかりましたが、導入の判断はどのようにすればいいのでしょうか?
以下に導入のメリットとデメリットを整理しました。
プロセスマイニングのメリット
ファクトベースでシステム投資ができる
少し前までは業務改革の手段としてはシステム化くらいしかありませんでした。
しかし近年RPAや特化型SaaSなどが急増し、業務改革のための施策の選択肢は膨大になっています。ここで現状を把握せずになんとなくでシステム投資をしていては自社に合った最適なソリューションを選ぶことができません。
プロセスマイニングを活用することでまずは自社の業務課題を認識し、それにあった最適なソリューションをファクトベースで選択していくことが可能になります。
業務可視化にかけていたコストを削減できる
業務を自動化するプロジェクトを行う際に最も時間がかかる工数は開発ではなく、要件定義のフェーズです。仮に業務コンサルタントに依頼して業務の可視化から分析・要件定義まで行った場合、コンサル1人あたり月100万円以上の報酬が必要となるため大きなコストがかかってしまいます。
そのため、今までコンサルに依頼して可視化を行なっていた企業はプロセスマイニングを活用することで、圧倒的に低コストかつ抜け漏れのない業務可視化を実現できます。
プロセスマイニングのデメリット
プロセスマイニングを行うことによって発生するデメリットは基本的に起こり得ません。ただ気になるのはコスト面かと思います。
プロセスマイニング導入にコストがかかる
ツールのライセンス費用
まず、プロセスマイニングツールのライセンス費用がかかります。
料金はツールによって様々ですが、月数万円から使えるものから数百万円のものまであります。自社の用途や規模にあわせてツール選定を行うことが必要となります。
データ連携などの工数がかかる
導入の際には各種システムとのデータ連携やデータの定義づけなど多くの工数が必要になります。そのため導入には初期費用がかかるものが多く、数十万~数百万円のレンジとなっています。
プロセスマイニング導入の費用対効果
よく「プロセスマイニング自体の費用対効果が悪い」という話があります。プロセスマイニングは可視化を行うツールですが、目的を伴わない可視化ほど意味の無いものはありません。
プロセスマイニングによってできる業務改革の施策こそが価値となります。
そして、どの業務に対して何を行うかで費用対効果は大きな差になります。そのため「どの業務を優先的に改善するか」を選定するためにも、現状分析と最適な施策を行なうことが大切です。
【厳選】主なプロセスマイニングツール3選
プロセスマイニングツールには様々なものがありますが、国内で主要なツールを厳選して3つご紹介します。
業務改革クラウド((旧:Arkプロセスマイニング)
業務改革クラウドは純国産のツールであり、国内でユーザー数を増やしています。特徴としては、各クライアントにインストールするタイプでWindowsのログをもとに業務可視化を行うため、どのようなアプリを利用していても対応できる汎用性の高さです。
またシステムの操作と業務を紐づけることができるので、どの業務に時間がかかっているのか簡単に可視化することが可能で業務改革の施策検討に活用できるツールです。
継続的な業務改革が可能に!日本企業のために作られた「業務改革クラウド」【代表インタビュー】
Celonis(セロニス)
Celonisは世界で最も普及しているプロセスマイニングツールです。2011年にオートメーションのメッカであるドイツで誕生し、現在は全世界800社以上で利用されています。国内にも法人があり、KDDIやSmartHRなどの企業で導入が進んでいます。
大きな特徴としてはSAPやSalesforceなどのビジネスで定番のシステムとの連携機能に優れており、これらのシステム上で行われているイベントログから緻密に業務分析を進めることが可能になります。また、クラウド型での提供となっているため各クライアントにインストールすることなく利用することが可能です。
プロセスマイニングツールCelonisをわかりやすく解説!
MeeCap(ミーキャップ)
MeeCapは純国産のプロセスマイニングツールで、金融機関を中心に利用されています。大きな特徴の1つとしてはHappyPathというMeeCap独自の機能があり、これによって特定の業務の中での正常系処理と例外処理を明確にすることが可能です。
各クライアントにインストールするタイプのツールとなっており、キータイプやアプリの使用率など把握することができ従業員1人1人の働き方を詳細にみることで業務改革を進めていくことができます。
プロセスマイニングツールMeeCapとは?
プロセスマイニングの導入事例
実際にプロセスマイニングを活用することでどのような効果がでているのか?代表的な事例をいくつかご紹介します。
Uberの事例
日本ではUberEatsで馴染みのある「Uber」は2009年設立ながら世界70カ国・地域の450都市以上で自動車配車サービスを展開する企業です。この規模まで急成長を遂げた弊害として、各拠点においてカスタマーサポートにばらつきが大きくプロセスに無駄多いという課題がありました。しかし、各国膨大な数の拠点があり直接どのように業務を行っているのか調査することが困難でした。
そこでUberは「すべての顧客とパートナーに一貫した高品質のサービスを100%の時間で提供する」ことを目的として、カスタマーサポートのコンタクト処理に対してプロセスマイニングを行いました。その結果、思わぬ非効率性を発見することに繋がり業務の標準化やRPAによる自動化を実装することで2000万ドル(日本円で約20億円)の効率化を実現しました。
BMWの事例
BMWは言わずと知れたドイツの自動車メーカーです。ここでは既に複数の分野でプロセスマイニングを活用しています。中でも製造/生産の分野では深く活用しており、製造業においてはベンチマークすべきモデルケースとなっています。
プロセスマイニングを活用するきっかけとなったのは、ある革新的な塗装工場の導入がきっかけでした。BMW社内ではこの塗装工場の導入について否定的な意見も多かったため、その根本原因(特定の色の塗料のエラー、時間をとっている作業、手直しの必要性など)を特定使用としました。しかし、それらを人による観察で測定することは困難であったためプロセスマイニングに白羽の矢が立ちました。ここでプロセスマイニングを導入したことによって、今まで見えていなかった製造プロセスまで明らかになり、改善活動を効果的に推進できることができ全社へと広げることになりました。
現在では自動車1台あたりの製造コストやエネルギーコストの分析、工場ごとのパフォーマンスの違いを比較することによって継続的な生産性向上にプロセスマイニングを活用しています。
プロセスマイニングの導入事例を紹介!業務可視化が進んでいるのは海外だけではなかった!
プロセスマイニングとRPA・業務自動化
プロセスマイニングはRPAとも親和性の高いソリューションです。場面によってその活用方法をご紹介します。
これからRPAを始める場合
これからRPA・業務自動化を始める場合、実際に業務をRPA化していく前に対象業務を棚卸してどこからRPA化していく必要があります。業務ヒアリングやアンケートによって棚卸しを進めることもできますが、プロセスマイニングを活用して可視化することでRPAのスタートダッシュを効率よく進めることができます。
また、初期の対象業務選定では、自動化のインパクトが大きいかつ自動化にかかる工数が少なくスモールスタートができる業務を見つけることが重要となります。RPAを始める前にプロセスマイニングで各業務のボリュームと利用しているシステム・データを知ることで業務選定の大きな手助けとなります。
そもそもプロセスマイニングによって現状分析をした結果、RPAを実施するよりも、システム化やBPRのほうが最適であるという結論になる可能性もあるので自動化の前に現状を知ることが業務改革を成功させる上で重要です。
すでにRPAを活用している場合
すでにRPAを推進しており、業務を自動化している場合においてもプロセスマイニングの活用は有効です。
まず、RPAの対象業務選定を人力のヒアリングなどに頼って行っている場合はプロセスマイニング導入によってその工数が削減されます。さらにデータドリブンで自動化を進めることができるので、要件定義の抜け漏れによって発生する開発の手戻りも予防できます。
また、RPAを推進していると現場から対象業務が上がってこなくなりネタ切れに陥ることがありますが、プロセスマイニングはブラックボックス化されている業務を掘り起こすことができるので対象業務が枯渇しづらくなります。これによって対象業務が増えていくのでRPAをスケールさせていくことが容易になります。
プロセスマイニングは業務改革を推進するカギになる
日本ではまだプロセスマイニングを活用している事例は少ないですが、RPAなどの業務改革を進める上で外せないソリューションです。今までは「流行りだから」「他社もやっているから」といった理由で業務改革のツールが選ばれることが多い現状でした。
しかし、プロセスマイニングを活用する企業が増えることで、自社にとって必要なソリューションをデータドリブンで選択していくことが可能になります。自動化の技術も日々進歩していきますので、常に自社業務を把握していることが業務改革でリードするために重要となり競合他社との優位性になります。
プロセスマイニングラボ(プロラボ)では、プロセスマイニングの基本的な知識から活用方法、事例などをわかりやすく発信していますので他の記事もぜひ参考にしてみてください。