2016年に消費税に関わる新たな施策として、インボイス制度の導入が決定しました。制度の内容を受けて、世間では「個人事業主やフリーランスに大きな影響が出る」「廃業に追い込まれるかもしれない」と物議を醸しています。
本記事では、インボイス制度の概要や各事業者に及ぼす影響、準備すべきことを発注側の企業・受注側の双方から解説していきます。
インボイス制度とは
インボイス制度とはインボイス(適格請求書)を用いて仕入税額控除を受けられる制度で、適格請求書等保存方式とも呼ばれています。2019年10月に軽減税率が導入されたことを受け、消費税額を正確に把握するために定められました。
インボイス制度は、2023年10月1日開始予定です。しかし、制度に対応するためには開始日程以前からの準備が必要です。たとえば課税事業者は発注者にインボイスを発行できるよう、2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録をしなければなりません。
なお、インボイス制度に関わる用語として次のものがあげられます。いずれもインボイス制度を理解する上で欠かせない用語ですので、意味を押さえておきましょう。
- インボイス(適格請求書)
- 仕入税額控除
- 適格請求書発行事業者
インボイス(適格請求書)とは
インボイスとは、受注者が発注者に対して発行する請求書のことです。
現在では、軽減税率導入に伴い消費税率ごとに分けて記載する「区分記載請求書」の発行が義務付けられています。インボイスには、区分記載請求書の記載項目に加えて「適格請求書発行事業者の登録番号」「税率ごとの消費税額」を記載しなければなりません。
現行の区分記載請求書と、インボイスに記載すべき項目をまとめました。
項目名 | 従来の請求書 | 区分記載請求書 | インボイス |
発行事業者の氏名または名称 | ◯ | ◯ | ◯ |
取引年月日 | ◯ | ◯ | ◯ |
取引内容(軽減税率の対象品目である旨) | ◯ | ◯ | ◯ |
取引金額 | ◯ | ◯ | ◯ |
交付を受ける事業者の氏名または名称 | ◯ | ◯ | ◯ |
税率ごとに区分して合計した対価の額(税込) | – | ◯ | ◯ |
適格請求書発行事業者の登録番号 | – | – | ◯ |
税率ごとの消費税額 | – | – | ◯ |
インボイス制度では、発注先から発行されたインボイスを元に消費税を計算・納付することになります。受注者は受注先に対してインボイスを発行し、発注者は仕入税額控除を受けるためにこれを保存しておく必要があるのです。
仕入税額控除とは
仕入税額控除とは、課税売上げの消費税額から課税仕入れの消費税額を差し引くことです。課税売上げは商品の売上げや事業のための資産譲渡などを、課税仕入れは事業のための購入や仕入れのことをいいます。つまり仕入税額控除とは、発注者から支払われた消費税から仕入れ時などに支払った消費税を控除することです。
発注者が仕入税額控除の適用を受けるためには、受注者から交付されたインボイスを保存しておく必要があります。発注先が免税事業者の場合、インボイスを発行してもらえないため仕入税額控除を適用することはできません。
適格請求書発行事業者とは
適格請求書発行事業者とは、税務署に登録申請書を提出し、登録を受けた事業者です。適格請求書発行事業者になることで、受注者はインボイスを発行できるようになります。
なお、適格請求書発行事業者になれるのは課税事業者のみです。消費税を納めていない「免税事業者」は対象外となります。
結局何が変わるの?インボイス制度による影響を発注者・受注者別に解説
インボイス制度開始によって、発注者・受注者双方に影響がでます。具体的にどのような影響が出るのか、発注者・受注者それぞれについてまとめました。
発注者の場合
発注者の場合、発注先が免税事業者か課税事業者かによって受ける影響が変わります。
免税事業者に発注する場合
免税事業者に発注する場合、仕入税額控除を受けられなくなるため納税額が増額します。インボイスを発行してもらうことができず、仕入れにかかった消費税を発注者が納税しなければなりません。
課税事業者に発注する場合
課税事業者に発注する場合、仕入税額控除を受けるためにインボイスの発行を依頼する必要があります。発行してもらったインボイスは保存が必要です。
受注者(免税事業者)の場合
免税事業者とは、消費税の納付が免除されている事業者のことです。具体的には、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の個人事業主・フリーランスが該当します。
つまり、前々年分の確定申告で課税売上高が1,000万円以下であった場合は、消費税を納付しなくてもいい免税事業者が選択できます。
※課税期間:原則として個人であれば1月1日~12月31日、法人であれば事業年度
※基準期間:納税義務の判定の基準となる期間。原則として個人事業者であれば前々年、法人であれば前々事業年度
インボイス制度の導入によって、免税事業者は受注の面で課税事業者よりも不利な状況に立たされる可能性があります。
免税事業者は、インボイスを発行することができません。よって、免税事業者に業務を発注している事業者は、仕入税額控除の適用を受けられなくなります。節税対策のため、免税事業者は仕事受注の面で課税事業者よりも不利になる可能性があるのです。
受注者(課税事業者)の場合
課税事業者とは、消費税の納付義務がある事業者のことです。
インボイス制度が開始されると、課税事業者は、発注先に求められた場合にインボイスを発行しなければなりません。同時に、インボイスの写しも保存しておく必要があります。なお、インボイスを発行するためにはあらかじめ適格請求書発行事業者へ登録する必要があります。
さらに、インボイス制度により経理業務が複雑になります。現行の区分記載請求書の記載項目に加え、登録番号や適用税率、税率ごとに区分した消費税額等などを記載しなければなりません。
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